自動査定システムは電気羊の夢を見るか?

皆様あけましておめでとうございます。

年末に某イベントで忙殺されたので、年明けてからは何も気力が出ず、どこにもいかず、ひたすらビールとつまみだけで3日ほどごろ寝生活をしていた社会不適格者のHiroです。


新年一発目のネタは「自動査定システム」についてです。これは自分の中での数年来のホットトピックで、ボク自身もあの手この手でそれなりに実証実験もしてきました。


中長期の課題として取り組もうとしている企業様も数社知っています。反面、頭ごなしに「そんなことできるわけがない系団塊おじさん」にはまったく理解してもらえないネタでもあります。


そんな禁断の自動査定システムなんてほんとにできるのか?ということについて所感を述べていきたいと思います。


でも考えてみてください。


査定が自動で完結してしまったらリユース業は大変なことになります。そう。いわゆる「ノウハウ」とされているバイヤーの確保という参入障壁がなくなるわけですから、我も我もとカジュアルにリユースに新規参入できてしまいます。


ただでさえ、昨今はCtoCが台頭しているレッドオーシャンの業界において、あっというまにさらなる地獄絵図になってしまいます。査定という参入障壁がなくなれば商売としてはリテール(新品)を扱うのとほとんど難易度が変わらなくなってしまうわけです。


ですので、


「仮にできたとしても情緒的になんかヤダ」


と思っておられる先読みの鋭い経営者様もいるとかいないとか。


さて。前フリの与太話はこれくらいにして、現実的な内容に触れていきましょう。


アンドロイドか人間か


表題はフィリップ・K・ディックのSF小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」のリスペクトになっています。初見の方も、原作を読んだ方も、映画で見た方もいらっしゃるかもしれませんが、簡単に内容に触れたいと思います。

以下引用

第三次世界大戦後の未来、サンフランシスコを舞台に賞金稼ぎのリック・デッカードが、火星から逃亡してきた8体のアンドロイドを「処理」するというあらすじ。電気動物やムードオルガン、マーサー教などディック独自の世界観の上に描かれている。この世界では自然が壊滅的打撃を受けているために、生物は昆虫一匹と言えども法によって厳重に保護されている。一方で科学技術が発達し、本物そっくりの機械仕掛けの生物が存在している。そしてその技術により生み出された人造人間は感情も記憶も持ち、自分自身ですら自分が機械であることを認識できないほどのものすら存在している。主人公は、他者への共感の度合いを測定するテスト「フォークト=カンプフ感情移入度測定法」によって人造人間を判別し、廃棄する賞金稼ぎである。この世界での生物は無条件の保護を受ける一方で、逃亡した人造人間は発見即廃棄という扱いとなっており、主人公のような賞金稼ぎの生活の糧となっている。

Wikipediaより


ここで言うフォークト=カンプフ感情移入度測定法というのが人間(かアンドロイドか見た目はわからない)に対して体に電極を付け、アンドロイドは感情移入がない、もしくは希薄であるという前提で様々な質問をして見分ける方法です。


この作品のネタバレは避けますが、人間と人工知能の違いをテーマに描かれた名作ですのでお時間がある方はぜひ。


さてさて。


もし自分の中学生くらいの子供が最新のロレックスデイトナを持ってこれなんだ?ってパパ質問したとします。


パパがアンドロイドなら


「ロレックスデイトナ2016年モデルだね」と答えるでしょう。


パパが人間の親なら


「ちょっとまて。なんでそんな高級品をお前が持ってるんだ!?まさか・・・」


と答えるのではないでしょうか?


「AIによる自動査定システム」を端的に表してみました。


AIは過去の学習データからそれが「ロレックスデイトナ」であることはわかるでしょう。


ただ、


「お!2016年モデルだ!これはクロアカギリギリでも買いたい!」


とか


「この人立て続けに新品の高級時計ばっかり送ってきてるけど、まさか・・」


とか


物体認識以前の「買う買わないの判断軸」までは計算することは出来ません。


すごく誤解を招く言い方ですが今のAIというのは


人間「はい!これロレックスのデザインデータです!覚えて!」

AI「覚えました!」

人間「じゃあこれなんだ?」

AI「これは学習データにあった。ロレックス サブマリーナ Ref.116610LNです!」

人間「よくできました!ではこれは?」

AI「むむ?これはデータにないけどデイトナにかなり似ているな」

AI「ロレックス デイトナ 型番不明 です!」

人間「90点!じゃあこれは?」

AI「わかりません」

人間「残念!オメガでした!」


ある程度型式のしっかりしたものは、ここまではAIによって実現します。もちろんロレックスだけじゃなく入手できる限りの時計のデザインデータを学習させればオメガでもカルティエでも答えることは出来ます。


ですが


人間「このデイトナ誰のだ!?」


人間「買ったんですか?ん?お客様の買取品ですか?」


ってすぐ答えが出ますがAIにはこの質問には答えられません。


なんとなく掴めてきたでしょうか?


現在のAIはあくまでも


「教えたことしかわからない」

「教えたものに<近い>ものはある程度推論できる」


ことが精度良くできるのですが教えていないこと、ましてやメタ的な「判断軸」などはまったく対応することは出来ません。


つまりいまのAIには「判断」はある程度できるが、「何を判断するか」は人間があくまでも教えて上げる必要があるのです。


ディープラーニングはなんだかすごいらしい?

そうそう。人工知能と言えば、最近知人から「最近ディープラーニングとかに代表される人工知能の発達がすごいよね。後何年で攻殻機動隊の素子さんはできるんだろうね」などと聞かれることがあるのですが、素子さんは残念ながらまだ当分難しいと思います。(個人的には早く実現してほしいですが)


なぜなら、現在囲碁や将棋、自動運転などで爆発的に発展している人工知能は「特化型人工知能」と言って、なんらかの用途に特化されたものを言います。


素子さんやドラえもんさんは「汎用型人工知能」と言って自己学習し、推論し、判断を下すことができるものです。簡単に言うと、人間と同じレベル。


人工知能で「目」としてとらえたカメラ映像を石ころなのか宝石なのか木の枝なのかを判断する場合、膨大なデータを学習されれば認識率は高まりますが、精巧にプラスチックで作られた石ころを見分けることは現時点では不可能です。人間でも見るだけなら騙される人多数ですが、プラスチックなら持ってみればそれが何かはたいていわかりますね。


人間は学習と環境情報から初見のどんな岩石でも「石っぽい」と認知することができます。ところが人工知能はそうは行きません。あくまでも学習用にインプットしたデータに依存しますのでどれだけ石ころの膨大なデータをインプットしようとも、ピラミッドやモアイ像が石でできていることはわからないのです。


つまり「だいたい石っぽい」という「情報の一般化」ができるかどうかが人間に近づく一歩なわけです。現在の特化型はそこにいたっていません。

人間の認識・理解には3ステップあって


  1. 言葉 石
  2. 概念 自然物で重くてザラザラしてて大小あっていろんな材質がある硬いやつ
  3. ビジュアル 過去に目で見た石


という組み合わせになっていますが、今のAIには「概念」がありません。


言葉とビジュアルをひたすら学習させて紐付けているに過ぎません。したがってソフトバンクさんのペッパーくんに猫の写真を見せたら過去の「ネコ画像」と「猫」という単語だけで「猫です」って答えるかもしれませんがペッパーくんには「猫とは何であるか」はわかっていません。


素子さんを作るにはAIに「概念」を実装する必要があります。


たとえますと・・


特化型=指示をされ、単純な判断基準で特定の作業のみができるアルバイト

汎用型=判断材料を探し、推論し、あるときは合意形成し、自分で判断できる経営者


これくらいの違いがあるわけです。もちろん優秀なアルバイトさんもいるのであくまでも一般的な例えということでお願い致します。


これは全く別物と言っても過言ではなく、特化型をどれだけ積み重ねても汎用型にはなりません。この話をつい詰めるととても長くなるので割愛しますが、人工知能と言っても2種類あるってことは覚えておいてください。


やっと本題


さて、なんだか自動査定に役に立ちそうな人工知能の簡単な説明をして、ようやく本題です。

査定には大きく3つの要素があります。


  1. 買う買わないの判断
  2. 値決め
  3. 真贋

言い換えますと

  1. 事前評価
  2. 事後評価
  3. 批判的検証評価

・・と、言い換えることができます。


脱線しますが「事前査定」というキーワード、私はすごく違和感あります。査定とは現物を受け取った後に正しく評価することですので、事前に行うものは「見積もり」にすぎません。


それはいいとして


いわゆる「バイヤー力」といわれる「能力」は大きく上記3つを指すことが多いと思っています。(あくまでも一般的な認識を大きく分けた場合。他にもあるぞ!って前の記事で言ってたやないか!ツッコミはご容赦ください)


その中でも事前評価「買う買わないの判断」については最も感覚的であり、概念的であり、損益にダイレクトに影響し、経験値、総合力が求められる重要なスキルです。


経験豊富なバイヤーさんはこの段階でぱっぱっと瞬時に仕分けをし、事後の値決めを効率化する能力に長けています。このスピードがバイヤー力の基礎値を決めると言っても過言ではありません。


一方、この判断はとてもあいまいでなかなかロジックに落とすことは難しいように感じます。


ここで「あ!」と気づいた方は有能です!


そうです。先ほど説明した特化型・汎用型の話しに戻ります。

特化型は学習データを与えてやるべきことに特化した人工知能です。


例えば時計の盤面を学習させ、それがどのブランドのどの種類なのかをアウトプットすることは比較的容易です。アパレルに関してもブランドを絞ればある程度それが何かは検出してくれるでしょう。


「それが何か」が特定できれば、あとはネットやDBにクエリーを投げるだけです。過去の価格や、そうすれば相場情報などと照合が可能です。


現在の特化型で技術的な課題は(経営的な要求精度に達するほどの「実用レベル」かはさておき)、なんとかクリアできそうです。


ところが「買う買わない」の判断はまさに「商材の一般化」「査定の概念化」が必要です。


某激安ブランドの服をどれだけ学習して、「うにゃ九郎(すみません。察してくださいw日和ましたw)」は買い取らないって決めたとしても「しまみゅらー(察してw)」を買う買わないの判断は特化型人工知能にはできません。


値決めや真贋

ある程度の形状、色、柄などのある程度分類された判断軸が使用できる。言葉とビジュアルによって学習できる。


買う買わない

過去の膨大な経験から導いた概念。「一般化」が必要なのでAIや初心者には難しい。


買う買わない判断、つまり事前評価に関しては「判断材料がある」他の2項目と違い「そもそも何を判断すべきか」という「判断軸を自立評価」する必要があり、汎用型に近い「概念」が必要です。


つまり自動査定は夢のあるシステムですがディープラーニングがどれだけ発達しようとも、もう3ステップくらい超えなくてはいけない壁があります。


やっぱり無理なんだね


そうとも言えません。


以下のそのヒントがあります。


Googleの自己学習する人工知能DQNを開発した「ディープマインド」の実態、何が目的なのか?

http://gigazine.net/news/20150831-google-deepmind/


DeepMind

https://deepmind.com/


このDQNくん


なんと、いっさいゲームのルールを与えなくても自己学習してゲームをクリアしちゃうそうです。


Google、脳のシミュレーションで成果……猫を認識

http://www.rbbtoday.com/article/2012/06/27/90985.html

>今回の研究成果では、コンピューターは猫がどういうものであるか人間に教えられること無く、自力で理解した。


「概念」もついにクリアしたみたいです。


ただし。


この計算には16000個のCPUでうなったらしいです。


ただ、人間の神経回路は100兆あります(笑


まだ遠いか・・? いやできるかも??


完全自動化は無理でも・・事後評価なら自動化できるってこと??


はい!要求精度によりますが技術的にはできそうですね!!



最後に


そもそも自動化できるか以前にみなさんが日々行っている「査定」という概念をきちんと説明できますでしょうか?(哲学的)


そのあたりに完全自動化のヒントが隠されていそうですね!



ではまた!


参考 

[言葉と概念] Pepper君は言葉を理解しているか?

http://ai-revolution.net/gainen/



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